大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和53年(行コ)6号 判決

愛知県一宮市栄一丁目一一番八号

控訴人

丸村株式会社

右代表者代表取締役

村橋富士雄

右訴訟代理人弁護士

大脇保彦

太田耕治

愛知県一宮市栄四丁目五番七号

被控訴人

一宮税務署長

小栗徳夫

右指定代理人

岸本隆男

宇野力

清水利夫

山田太郎

小野正裕

右当事者間の法人税更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人に対して、昭和三四年度分ないし同三六年度分法人税についてなした原判決添付の別表(一)(課税処分表)の「(2)更正または決定の金額」欄記載の更正処分、並びに過少申告加算税、重加算税の賦課決定処分は、それぞれこれに対応する同別表(一)の「(1)申告または更正前の金額」欄記載の金額を超える限度において、いずれもこれを取消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、左記に付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人)

原判決添付の別表(二)及び(三)の各所得金額表並びに同(四)課税処分表中の各指定金銭信託、定期預金及び普通預金(以下「本件預金類」という。)が控訴人帰属の財産であると認定するためには、本件預金類が控訴人の財産として発生取得されたもの(以下これを「法人起源」という。)であるか、又は、その発生原因は別として、控訴人が本件預金類を管理していた実態からみて、これを控訴人の財産とみる(以下これを「法人管理」という。)のか、そのいずれかが認定されなければならない。ところが、原判決は本件預金類の源泉全部が控訴人の脱税によって捻出されたものであることを認定したものではなく、また、本件預金類の全部が控訴人において保管されていたことを認定したものとも思われない。すなわち、原判決は、本件預金類の帰属について、法人起源説、法人管理説又は両者の折衷説のいずれによったものであるか説示上不明確というほかない。しかし、いずれの立場を前提とするにしろ、原判決には以下述べるとおり、その事実認定において、重大な誤りを犯している。

一  本件預金類の帰属(源泉)について

1 まず、原判決添付の別表(九)による各年度に発生した本件預金類の元本合計額の増加状況及び原判決理由三、2、(一)、(二)において認定された右元本増加の資金源たりうる数額並びにその資金透明度は、本判決添付の別表(2)記載のとおりである。

2 右預金額から控除されるべきものとして、まず紅屋商店の在庫品処分代金が挙げられる。紅屋商店は、亡村橋邦太郎(以下「亡邦太郎」という。)個人が、村橋富士雄名儀で営業していたものである。紅屋商店在庫品は、右亡邦太郎が昭和三〇年度内に控訴人を通じて売却したものであり、その処分代金は、亡邦太郎に帰属すべきものである。原判決は、右処分代金が、本件預金類に混入していることを認めながら、これを控訴人の本件預金類から控除していない。

3 昭和三三年度内に亡邦太郎が箱根の土地を売却したことは当事者間に争いのないところである。したがって、右売却代金は亡邦太郎に帰属するものというべきところ、右代金のうち二、五〇〇万円は本件預金類の源泉となっている。よって、右代金は本件預金額から控除さるべきである。

4 亡邦太郎経営の訴外丸邦毛織株式会社は、昭和三四年度内に控訴人に対し、金四、八四四万余円の糸を売却した事実があるのに、結局右売却代金は右訴外会社には交付されず、本件預金類の資金源となっていること明らかである。右売却代金が訴外会社に帰属すべきものであることは明らかであるので、その管理者如何にかかわらず、これを本件預金類から控除すべきである。

5 次に、本判決添付別表(2)記載の昭和二九年度から昭和三六年度までの間の本件増加預金額のうち、控訴人の利得が資金源となったものは、最大で見積っても三六・九パーセントであり、その余は資金源不明である。原判決は右資金源不明の預金増加分についても、控訴人の営業による利益である旨認定するが、控訴人に対する税務調査は徹底的に行なわれており、右別表に判明している以外にいかなる資金源もありえない。原判決は、同判決添付の別表(十)記載の他の業者の業績との比較において、控訴人の利益を推定している。しかしながら、控訴人は卸売業者であり、原判決が対象とする他の業者四者のうち二者は製造業者であるから、業種を異にする者についての業績比較は意味がなく、また、同種卸売業者であっても、営業規模、営業方法、取扱商品は格段に相違するものであるから、その内容を詳細に検討しない限り軽々に営業成績の対比によって利益を推計すべきではない。のみならず、右業者との業績対比によっても、本判決添付の別表(2)の資金源を控訴人の公表帳簿上の利益(原判決添付別表(十一)参照)に加算した場合は、その利益率は他の業者との対比において、あまり差異がなくなるものの、本判決添付の別表(2)の増加預金元本全部を控訴人の利益とみなし、これについて利益率を算出すると、その売買差益は莫大なものとなり、同業者の利益率を大巾に逸脱した非常識な利益率となる。その間違いの根本は、右元本増加分から控訴人の売上除外と架空仕入を除外したものは、本来控訴人の営業による利益源泉となりえないのに、これを控訴人の営業利益とみた点にある。結局、本件預金の源泉は、控訴人の隠し利益が約三分の一程度であり、その他紅屋在庫品処分代金、亡邦太郎の土地処分代金、訴外丸邦毛織株式会社の簿外利益の混入等の合計金額が約三分の一弱、それ以外の源泉不明のものが約三分の一となっており、右源泉不明のものは、亡邦太郎個人が有していた約一億円の隠し財産が顕在化したことを前提としなければ合理的な説明がつかないことになる。

二  本件預金類の管理について

1 本件預金類が訴外村橋実によって管理されていたこと、同人が控訴会社の常務取締役であることは事実である。しかしながら、他方同人は、亡邦太郎の四男であり、同人が本件預金類を管理していたことから、直ちにこれを控訴人の帰属と認めることができないことは明らかである。のみならず、右事実は、同人が村橋家の固有財産たる本件預金類を管理していたことを認めさせる資料ともなる。

2 本件預金類は、すべて架空名義の預金証書によってなされており、裏印を押して何時でも払戻しを受けうる状態にあったことは事実である。しかし、このような形で預金されていることは、個人によって管理されていると、法人によって管理をされているとを問わずありうることで、これのみによって、管理者が法人であると決める基準とはならない。また、本件預金類については、預金証書が銀行の保護箱で保管されていたものであるが、その関係は、銀行はたんなる保護箱提供者であって、保管者ではない。したがって、これのみによって、保管者が個人であるか、法人であるかを決める基準となりえない。

3 本件預金類が、これまでに、控訴人の銀行借入れに対する担保となったこと、又は控訴人の債務弁済の原資として利用されたことは全くない。

4 以上述べたように、本件預金類が、控訴人によって管理ないし利用された事実はない。およそ個人が会社を経営し、その営業に関し脱税を行って財産を蓄積しようとする場合、個人企業としては、脱税によって得られた財産は、個人の側にとり込まれ、個人資産として管理されるのが常態である。本件預金類も、亡邦太郎が個人資産として蓄積し、管理していたもので、控訴人会社に帰属するものではない。

(被控訴代理人)

一  原判決添付別表(九)のうち、「十六銀行信託部」欄の「三一年度」「三五年度」「三六年度」及び「協和銀行一宮支店」欄の「三六年度」欄を、本判決添付別表(1)のとおり訂正する。

二  控訴人は、本件預金類の帰属を決するにあたり、法人起源説、法人管理説の区別を明確にすべき旨主張するが、財産の帰属認定にあたり、右の区別を明確にすべき論理的必然性はない。また、仮にそうだとしても、原判決は、本件預金類の源泉は、控訴人の本件係争各年度及びそれ以前における多額の売上除外、架空仕入等の不正経理による取得利益である旨判示し、その源泉を明らかにしており、その主張は失当である。また、原判決には、以下述べるとおり控訴人主張のような事実誤認はない。

(一) 本件預金類の帰属(源泉)について

1 控訴人は、昭和三〇年度に紅屋商店の在庫品処分代金が本件預金類中にとり込まれ混入した旨主張する。しかしながら、紅屋商店は、廃業当時(昭和二九年頃)従業員も二、三名のごく小規模な店舗であり、在庫商品も見積り価額六〇万円程度のものであった。このような状況から控訴人は右在庫品を紅屋商店から無償で引継ぎ、これを控訴人の商品として売却したものである。したがって、右売却代金によって預金が発生したとしても、これが控訴人に帰属することは至極当然のことというべきである。

2 次に控訴人は、昭和三三年度内に亡邦太郎が箱根の土地を売却し、その売却代金のうち二、五〇〇万円が本件預金類の源泉となった旨主張する。しかしながら、仮に右主張のとおりであったとしても、右売却代金は、控訴人帰属の他の預金類に混入され、帰属区分をすることが不可能となっていたので、被控訴人は右係争年度における別途利益を算出するにあたって、右金額に相当する預金を控訴人のものとして資産科目に計上するとともに、右二、五〇〇万円を控訴人の亡邦太郎に対する借入金として、社長勘定科目において、負債勘定として計上処理をしており、結果として、右売却代金は別途利益に算定されない取扱いをしている。

3 次に、控訴人は、昭和三四年度内に亡邦太郎経営の訴外丸邦毛織株式会社の簿外利益が、本件預金類にとり込まれ資金源の一部となった旨主張する。しかしながら、右訴外会社の控訴人に対する製品売却代金は四、八四四万一、〇一一円であるところ、内金二、二五七万〇、〇五五円は黄鶴貿易及び慶合貿易なる架空名義を経て右訴外会社に支払われ、残額二、五八七万〇、九五六円は、右訴外会社において、売掛金洩れとして修正申告がなされ、他方控訴人において、右訴外会社に対して支払うべき右残額を本件預金類等に入金していたため、被控訴人は、控訴人の別途利益を算出するにあたり、昭和三四年度分において、本件預金類として資産勘定に計上するとともに、仮受金として負債勘定に計上した。したがって、本件の別途利益算出にあたっては、右訴外会社の簿外利益は含まれていない。

4 控訴人は、被控訴人の本件に関する税務調査は徹底的なもので、本判決添付の別表(2)で判明している以外にはいかなる資金源もない旨主張する。しかしながら、控訴人が本件係争各年度以前にも計画的に相当数の売上除外、架空仕入を行っていたことは原判決認定のとおりである。さらに、本件係争各年度における売上除外、架空仕入等は巧妙かつ計画的なものであるだけに、強制調査をもってしても取引及び不正経理の全貌を解明するにいたらなかったが、その一部不正経理だけを取り上げてみても係争各年度における売上除外、架空仕入等の合計額は、原判決認定のとおり八、六四六万二、〇五八円にのぼる莫大なものである。またこれを同業者の業績と比較してみても(原判決添付別表(十)、(十一)参照)、控訴人の差益率、利益増加率の異常に低いことは歴然としている。以上のような、控訴人が長期間にわたって巧妙かつ計画的な不正経理を行ってきたこと、本件預金類が亡邦太郎個人の資産と認めるに足る資料がないこと等を総合すれば、本件預金類のすべての源泉が控訴人の営業に関し発生し、控訴人に帰属したものというべきである。

(二) 本件預金類の管理について

本件預金類が控訴会社常務取締役村橋実によって管理されてきたことは、控訴人の自認するところである。そして、前記一4で述べたとおり、控訴人には不正経理によることが明白な簿外預金と、同じく不正経理によって発生したと推認される他の簿外預金とが、訴外村橋実によって一括管理されており、これら資金源が他に流用された事実がないこと、右預金類は、一括して控訴人が銀行から無担保で融資を受けるさい裏担保として機能を果しており、控訴人すら本件預金類の発生源を、預金証書ごとに区別明確化することができない点からすれば、これら裏預金(本件預金類)がすべて控訴人に帰属し、かつ控訴人の管理にかかるものと認めるのが最も合理的である。

第三証拠関係

当事者双方の証拠の提出、援用及び書証の認否は、左記に付加するほか、原判決事実欄中の証拠関係と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人)

1  甲第三二号証ないし第三四号証を各提出。

2  当審における控訴人代表者本人尋問の結果を援用。

3  乙第一三〇号証の成立を認める。

(被控訴代理人)

1 乙第一三〇号証を提出。

2 甲第三二号証、第三四号証の各成立を認める。第三三号証の成立は知らない。

理由

当審において取調べた新証拠を加えてなした当裁判所の判断によっても、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものと考える。その理由は左記に付加訂正するほか原判決の理由説示と同一であるからここにこれを引用する。

一  訂正

1  原判決添付の別表(九)(本件預金類の預入表)のうち、「十六銀行信託部」欄の「三一年度」、「三五年度」、「三六年度」欄及び「協和銀行一宮支店」欄の「三六年度」欄を本判決添付別表(1)のとおり訂正する(なお、右各訂正は、右各欄内部の記載個所及び計数上の明らかな誤記であり、右各欄の預金残高欄の記載額並びに本件課税額には影響を生じない。)。

2  原判決四二枚目表五行目の「簿外預金」とあるのを「隠し預金」と訂正する。

二  控訴人の当審における主張について

1  控訴人は、本件預金類の帰属を認定するにあたって、原判決が、法人起源説によっているのか、或いは法人管理説によっているのか判示上不明確である旨主張する。しかしながら、所得の帰属の認定にあたっては、所得による実質上の利益をいかなる者が享受しているかが問題とされるのであって、利得の発生原因が法人の法律上又は事実上の行為に起因しているかどうか、又は、その発生原因は別として、その利得の管理者が誰であるか、はその認定の手段に過ぎず、両者を截然と区別し、そのいずれかの立場によって、帰属を認定すべきであるとする論理的必然性はない。所得の帰属を認定するにあたっては、その発生原因たる行為や事実の法的評価による場合のほか、得られた所得の実質上の管理、収益、処分がいかなる者によってなされているか等諸般の事情を考慮してその利益享受者を確定すべきものであり、原判決の認定方法に主張のような違法はない。

2  次に控訴人は、亡邦太郎個人の経営にかかる紅屋商店の在庫品処分代金が本件預金類に混入している旨主張する。紅屋商店の在庫品が、昭和二九年末の同商店廃業当時に存在し、これが控訴人によって他に売却され、その売却代金が本件預金類の源泉となっていることは原判決認定のとおりである。しかしながら、原審における証人北野仁俊、同村橋実の各証言及び当審における控訴人代表者本人尋問の結果を合わせ考えると、右在庫品は、紅屋廃業後、帳簿上の処理もなされないまま同族関係にあった控訴人に事実上引継がれ、控訴人の販路を利用し、控訴人においてこれを販売し、その売却代金は、控訴人の売上代金と一体化して処理されていることが認められ、右のような在庫品の事後の処理状況からみると、右利益の実質的な享受者は控訴人であると認めるのが相当である。

3  控訴人は、亡邦太郎所有の箱根の土地の売却代金相当額が本件預金類に含まれており、右相当額は本件預金額から控除さるべき旨主張する。しかしながら、仮に控訴人主張のとおり、右売却代金のうち二、五〇〇万円が、本件預金類の源泉となっていたとしても、被控訴人において、昭和三三年度における控訴人の別途利益を算定するにあたり、右金員を控訴人の亡邦太郎に対する借入金として、社長勘定科目に負債計上して処理していることは、引用にかかる原判決認定のとおりであり、(原判決五二枚目裏六行目ないし五三枚目表二行目及び同添付の別表(二)ないし(四)参照)右売却代金は、本件課税対象たる別途利益には算入されていないことが明らかである。

4  次に控訴人は、昭和三四年度内に亡邦太郎経営の訴外丸邦毛織株式会の簿外利益が本件械金類の源泉の一部になった旨主張する。しかしながら、成立に争いがない甲第三二号証、乙第一一二号証、同第一一七号証、原審における証人北野仁俊の証言及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第一二〇号証の一、二、同第一二一号証の一ないし三を合わせ考えると、右訴外会社は控訴人に対し、昭和三四年度内に総額四、八四四万一、〇一一円相当の製品を売却し、その内金二、二五七万〇、〇五五円について、控訴人から黄鶴貿易及び慶合貿易なる架空名義の取引先を経て右訴外会社へ入金されたが、残額二、五八七万〇、九五六円については、右訴外会社において売掛金洩れとして修正申告がなされ、他方、控訴人は、右訴外会社に対して支払うべき残額について、これを訴外会社に支払うことなく本件預金類に入金していた事実が認められるところ、被控訴人において、昭和三四年度分における控訴人の別途利益を算定するにあたり、右残額二、五八七万〇、九五六円について、これを仮受金として負債勘定に計上していることは引用にかかる原判決認定のとおりであり(原判決五四枚目裏六行目ないし末行及び同添付の別表(二)参照)、右残額は本件課税対象たる別途利益から除外されていることが明らかである。

5  次に控訴人は、原判決において認定された控訴人の売上除外、架空仕入等の不正経理による金額(本件預金類の資金源)は、本判決添付の別表(2)の資金源欄記載のとおりであり、右資金源の本件増加預金元本額に占める割合は、平均三六・九パーセントに過ぎず、その他は控訴人の営業活動とは無関係に取得された個人資産である旨主張する。

しかしながら、控訴人の本件預金類の源泉を考えるに当っては、右の不正経理を除外してみても、昭和三〇年頃から同三五和頃にかけて、愛知県下における婦人織物業者が、製造業者、卸売業者ともに空前の好況を呈し、取扱商品を同じくする同業者の昭和二九年ないし同三五年の事業年度別の業績が原判決添付の別表(十)記載のとおりであり、控訴人も当時同業者と同様にその利益を増大させてきたものと推認されることは原判決認定のとおりであり、これによる利益が本件預金類及びその他の別途利益の源泉となりえたものと認められ、これに加えて、控訴人主張の本判決添付の別表(2)記載の資金源欄に挙示される金額は、本件に関する強制調査によって判明した不正経理による額のみを挙示するもので、控訴人には、右以外にも同種手続によって長期間にわたり、巧妙かつ計画的な不正経理を行っていたものと推認されることは原判決認定のとおりであり、これらの諸点を合わせ考えると、本件預金類は、そのすべてが控訴人の営業活動とその不正経理によって形成されたものと認めるのが相当である。なお、控訴人は、本判決添付の別表(2)の増加預金元本全部を控訴人の利益とみた場合の利益率が同業者を大巾に上廻る非常識なものになる点を指摘するが、右算定における売上は、控訴人の財務諸表による年度別業績(原判決添付の別表(十一)記載)の売上額と原判決理由三、2、(一)、(二)において認定された売上除外額とを売上総額として利益率を算定した場合の不当性を主張するものと解されるところ、右売上除外額は、控訴人において、明らかに売上除外を行ったと認められる額のみであり、右のほか、控訴人については、さらに多額の売上除外及び架空仕入等が推認できることは原判決認定のとおりである。したがって、右利益率の算定は、前提となる売上額そのものについて根拠を欠き失当というほかない。

6  控訴人は、本件預金類の管理について縷々主張するところ、本件預金類が訴外村橋実(控訴会社常務取締役であり、亡邦太郎の四男)によって管理されていたこと、本件預金類がすべて架空名義の預金証書によってなされており、裏印を押して何時でも払戻しを受ける状態にあったことは当事者間に争いがないところである。ところで、右事実関係のみからすると、本件預金類の管理が控訴人のためになされていたのか、個人のため管理されていたのかは直ちに断定しがたい。しかしながら、原判決認定のように、控訴人には不正経理による簿外資金があったことは明らかであり、これと、控訴人の不正経理によって発生したものと推認される他の簿外資金が、ともに簿外預金(本件預金額)として、右村橋実によって一括管理されていたこと、これら預金類は、控訴人の事実上の担保として、銀行から無担保で融資を受けるのに利用されていたこと(成立に争いがない乙第一〇八号証)、等を合わせ考えると、本件預金類は、控訴人のため右村橋実によって業務上保管されていたとみるのが相当である。

7  以上述べたとおり、控訴人の当審における主張はいずれも理由がなく、採用したい。

三  してみると、控訴人の本訴各請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について、民事訴訟法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 加藤義則 裁判官 上本公康)

別表 (1)

〈省略〉

別表 (2)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例